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東京地方裁判所 平成5年(ワ)21009号 判決

原告

カーサ亀戸共同管理組合

(旧名カーサ第二亀戸管理組合)

右代表者理事長

成瀬六郎

右訴訟代理人弁護士

下奥和孝

被告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

鳴尾節夫

原周成

大森浩一

馬上融

被告

大野義房

主文

一  被告大野義房と被告甲野一郎間における別紙物件目録記載の建物専有部分の賃貸借契約を解除する。被告甲野一郎は、原告に対し、右建物専有部分を明け渡せ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)に基づいて、マンション・カーサ第二亀戸の建物等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立されている原告が、右建物の一つの専有部分の区分所有者である被告大野義房及びその部分を同被告から賃借してそこに居住している被告甲野一郎に対し、区分所有法六〇条一項の規定に基づいて、被告ら間のその専有部分の賃貸借契約を解除することを、並びに被告甲野一郎に対して、当該専有部分の明渡しを、それぞれ求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、区分所有法に基づき、別紙物件目録の一棟の建物を含む四棟のマンション・カーサ第二亀戸の建物(以下「本件マンション」という。)等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立された、本件マンションの区分所有者全員を構成員とする管理組合であり、被告大野義房は別紙物件目録記載の建物専有部分(以下「本件建物」という。)の区分所有者であり、被告甲野一郎は、被告大野から本件建物を住居に使用する約束で賃借し、住居として使用している者である。

2  原告は、あらかじめ総会を開催する日時、場所、議題、等を同被告に通知したうえ、平成五年七月二五日臨時総会を開催し、同被告に弁明の機会を与えて本件建物区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数によって被告大野と被告甲野の本件賃貸借契約の解除及び原告への賃貸物件の引渡しを議決した(以下「本件議決」という。)。

二  争点

1  本件議決は有効に行われたか。原告は、本件議決に基づいて、本件建物賃貸借契約の解除等を求めることができるか。

2  被告甲野は、本件マンションの建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をし、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、契約解除及び明渡請求以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか。

三  争点に関する原告の主張

1  被告甲野は、次のような種々の義務違反行為を故意に反復、継続した。

これらの行為は、今後も繰り返されるおそれが極めて強い。これらの行為以外にも、これに類する被告甲野の行為は枚挙にいとまがなく、本件建物の居住者は、顰蹙しながらも、同被告の陰湿かつ激越な人柄を恐れて、黙している実情にある。

(一) 被告甲野の専有部分をカーサ第二亀戸管理規約(甲一、以下「管理規約」という。)第一〇条に違反して大工職の仕事場兼倉庫に使用している。

(二) 本件マンションの共用部分に個人の大工業務用の資材を勝手に置いてこれを自分の資材置場として占有、使用し、原告の再三にわたる撤去要求に応じない。

(三) 一〇三号室の自宅において深夜頻繁に酒盛りをし、その際の怒号、奇声、罵声等が本件マンション全体に響きわたり、近隣の居住者は睡眠を妨げられ、恐怖にかられた。近隣の者が再三苦情を申し入れても、一向に改めようとせず、そればかりか、申し入れた者に喰ってかかり口論となる始末である。近隣居住者は、我慢するか、他に引っ越すかする他はなく、現に自宅を売却して他に引っ越した者もいる。

(四) 昭和六三年夏の一夜、本件マンション一号棟南側駐車場において、パンツ一枚の姿で、本件マンション全体に聞こえる程の大声で、居住者の子息を車の駐車のことで罵倒、恫喝し、それが余りに激越であったため、一一〇番通報がされ、警察官が駆けつける騒ぎとなった。この恫喝に本件マンションの住民は恐怖を覚えた。

(五) 平成三年九月頃自宅の真上の二〇三号室でベランダに干していた布団を叩いていた居住者の娘に対し、自宅に埃が入った等と言って部屋に押し掛けていきなり暴力を振るった。そのため、同室の居住者は、自宅を売却して転居した。

(六) 原告の業務執行を妨害するため、その理事長や理事らの胸倉を掴んですごみ、「ヤクザを使ってやってやる。理事長を辞めろ。」などと脅迫し、擦れ違いざまに両腕の肘を張ったり、睨み付けるなどの恫喝をし、深夜に理事長宅の玄関ドアーを長時間叩いたり、その前でカーサ第二亀戸全体に響くような大声でわめいて威嚇する等の行為を繰り返し、更に平成五年三月一七日原告の理事会終了後酒気を帯びて怒鳴りながら集会室に押し入り、居残って談話していた理事の胸倉を掴んで因縁を付け、大声で恫喝した。

(七) 平成五年五月一五日から一七日までの三回にわたり原告の掲示物を破棄した。これは、被告甲野の破棄のため新たに掲示した同一内容の掲示物を繰り返し破り捨てたものであり、原告は、このことについて同被告を告訴した。被告甲野は、また、原告の共用部分に許可なしにその私的掲示物を掲示し、原告が撒去する都度掲示を繰り返す等している。

(八) 本件建物内において専横な振舞いが著しく、気に喰わないと居住者に暴行したり、恫喝行為をしたりする。

2  右1の被告甲野の行為は、本件マンションの管理運営及び居住者の共同生活の維持・向上にとって重大な障害となっており、被告甲野が本件建物を占有し、使用する限り、本件マンションの居住者は常に平穏かつ安全な生活が脅かされている。この障害を除去し、本件マンションの管理・利用の適正及び本件マンション区分所有者の共同生活の秩序維持を確保するためには、本件賃貸借契約を解除して、被告甲野を本件建物から退去させる以外に方法がない。

3  被告甲野の自治会活動は、カーサ第二亀戸自治会(以下「自治会」という。)を私物化し、これを原告に干渉するための足場としたものに過ぎない。同被告は、原告が大部分を負担している年額六〇万円の自治会資金の大半を自己の飲食の費用にし、新年会に不必要なコンパニオン四名を呼んでその費用を自治会費から支出したり、平成五年度に四万六七九七円の使途不明金を発生させたりしている。被告甲野は、その支出を独断で行って収支の報告をしない。同被告は、また、自己のオーム真理教反対活動に自治会名を勝手に使用し、本件マンションの集会室等を無断使用した。更に、共用部分である敷地管理施設の鍵を自治会長として保管していることを利用して、自己の関係業者の自動車をそこに駐車させるなどした。そのため原告の平成四年度定例総会及び平成五年度定例理事会において自治会正常化委員会が設置され、被告甲野によるこれら濫用行為から自治会を正常化することを決議し、同年一〇月二四日開催された自治会臨時総会において出席者全員一致をもって新会長に金井山次を選出した。しかし、被告甲野は、自治会長職の印鑑その他自治会関係物品を引き渡さなかったため、自治会は仮処分の執行によってその引渡しを受けた。

4  被告甲野が主張する給水管工事は共用部分に係るものであるから、原告が管理すべきものである。同被告が干渉する余地はない。同被告がこの工事に干渉したのは、ユニットバス取替工事や、これに伴うマンションの内装工事等これに関連する工事を受注する目的があったからである。

本件マンションの各戸には浴室とトイレット一体型のものが多く、設置後長年月を経過したため、区分所有者は、昭和六三年頃からその改造工事を散発的に専門業者である旭ユニットに注文していた。被告甲野は、これに着目し、その工事を独占するため原告の名を利用しようとした。しかし、同被告は区分所有者ではなく、直接原告に関与できないため、自治会長職につき、当時の原告理事長木村秀和らと結託して管理規約を改正させ、相談役を置くことができるものとし、自治会長であるとして自ら相談役に就いた。同被告は、その資格で原告理事会に出席し、出席理事に暴行、脅迫行為を繰り返し、理事会を形骸化した。そして、急遽「甲野工務店」を名乗り、旭ユニットの社員に対して「ここは俺が取り仕切っているマンションだ。他の業者が入ってくるのはけしからん。」などといって暴行脅迫行為をし、一方木村秀和に理事長の名前を使用させて、甲野工務店を給水専用管新設更新及びユニットバスルーム改造工事に推薦する看板を掲示させたりビラを配付させたりした。このような事項が理事会に諮られたことはない。これによって真実推薦があるものと誤信した多数の区分所有者が必ずしも必要のない工事を同被告に施工させ、被告甲野は多額の利益を得た。同被告の当該工事には問題が多く、原告はその為に不必要な支出も強いられている。

四  争点に関する被告の主張

1  本件は、原告の理事の一部がその個人的な感情によって被告甲野を本件建物から排除する挙に出たことにことの本質がある。本件の総会決議は、充分話し合って解決することなく、一方的に排除の方向のみを追及して強行されたものであって、条理上踏むべき手順を尽くさずにした違法なものであるし、区分所有法六〇条一項の要件に該当しないのにされたもので、無効である。この決議については、反対者についてのみ人数を確認し、賛成者の人数や保留者の有無については確認せず、反対者以外を全て賛成者として可決した。このような決議は手続上致命的欠陥がある。

2  被告甲野は、本訴提起当時内田カクから賃借していた別紙物件目録二記載の区分所有建物を大工職の仕事場兼倉庫に使用したことはあるが、今回の問題が発生してからこれを取り止め、同所はその後職人の住居として使用し、その後明け渡した。

3  被告甲野は、平成三年一月二七日自治会の役員になると同時にその会長に就任した。自治会は、地域住民による任意団体であり、その目的は、地方自治の本旨に基づき会員相互の親睦と福祉を図り、明るく住み良い町作りを進めることにある。自治会は、その目的の達成のため、消防、防犯、交通安全その他の防災事業や会員相互の慶弔見舞い等の親睦活動を行っている。被告甲野は、その会長として、会員名簿の整備や、カーサ第二亀戸防災計画書の改定整備を行った。また、平成三年から翌年にかけて頻発した給水管本管の水漏れ事故や破裂事故の際には業者の補修工事に立ち会ったり、漏水によって通行不能になった通路を資材を渡して通れるようにするなど尽力した。給水ストップの手当てとして、向かいの会社寮に頼んで急場の水を確保した。更に、平成四年四月から六月にかけて原告が行った水道共用管本管の全面的更新工事の際にも、被告甲野は工事業者に必要な助言をするなど協力を惜しまず、原告の理事を初め多数の住民から感謝された。その際には、住民宅を戸別に回って工事費用の集金業務を手伝うことまでした。

4  右共用管の更新工事の際には、同時にユニットバスの取替えを希望する家庭が多かったので、被告甲野は、個別にその注文を受け、相場より相当安い代金で工事をした。この注文は約三〇件に及んだ。この際原告理事長木村秀和名義の推薦を受けたが、これは原告役員会で決定されたことである。これ以外にも、被告甲野にはフローリング工事などマンションの内装全般について細々とした注文が寄せられ、二二三世帯の約三分の一で注文工事を施工している。このような被告甲野がカーサ第二亀戸の秩序を無視し、これを破壊する行動に出ることなどは考えられない。

5  志鎌芳夫が原告の副理事長に就任するや、原告の管理下にある掲示板への掲示について厳しいチェックがされるようになった。そのやり方は高圧的で、従前の経緯を無視し、掲示した者の了解を得ないまま掲示物を剥がしたりする。被告甲野は、自治会長であった当時本件マンションの近隣にオウム真理教東京本部ビルが建設されるとの計画に対し、自治会として反対運動への取組を強め、種々のビラや立看板を作って運動を盛り上げた。同被告は、平成四年一一月には自治会長職をいったん辞していたが、平成五年二月六日か同月一三日頃その運動の一環として本件建物の門扉にビラを貼った。これは当然許容されるとの誤解に基づいたものである。原告理事である松村敬造や志鎌らがこれを撤去したが、同被告は、悪戯と考え再度ビラを貼った。この経緯については、原告理事長の成瀬六郎から説明を受けたので、以後は自治会の掲示板に貼ることとした。

6  平成五年一月末頃本件マンションの駐輪場の屋根を建設する工事が原告の事業としてされた。その際ALC板の撤去工事が一級建築士である志鎌の指示によって行われたが、その工事を担当する職人が、工事方法が分からないで途方に暮れていた。そこで、被告甲野が、志鎌宅に行き、工事方法を説明してあげて欲しい旨頼んだが、取り合わないので、更に要望したところ、志鎌は、「お前は関係ないだろう。」と暴言を吐き、ドアーを閉めてしまった。被告甲野としては、このような扱いを心外に思っていた。被告甲野が、同年三月一七日帰宅した際集会室で行われていた理事会が終了するところに行き合わせ、志鎌も居たので、釈明を求めるため室内に立ち入った。志鎌は逃げようとしたので、腕をつかもうとしながら「ちょっと待ってくれよ。」と言った。志鎌は、管理人の金井に「警察を呼べ。」などと叫びつつ逃げるように立ち去った。しかし、警察は呼ばれなかったし、その後成瀬と飲酒して談笑した。

7  ベランダ前空き地使用問題については、ユニットバス取替工事の大量注文のため、便宜的に一時使用してしまったが、この点は反省し、撤去した。

8  原告が被告甲野の行為として主張するその他のものはいずれも同被告に身に覚えがないことである。

第三  争点に対する判断

一  本件の判断方法について

区分所有法六〇条一項は、区分所有者が占有者に対し、訴えをもってその専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することのできる要件として、占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をし、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときでなければならないという実体的要件と、あらかじめ当該占有者に弁明の機会を与えたうえ、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でした決議に基づかなければならないという手続的要件とを設定した。したがって、同条項に基づく請求の当否を審理する裁判所としては、当該請求がその手続的要件及び実体的要件のいずれをも充足しているものであるかどうかを判断すべきである。このうち、手続的要件の存在は、本件議決のされた当時において、本件議決に則してこれを判断すれば足りるが、実体的要件は、本件議決のされた時と、本訴口頭弁論終結時のいずれにおいても、これが存在することが必要であるものと解される。それは、区分所有法六〇条一項の規定によれば、この実体的要件が、議決がされるための要件であると同時に、訴えをもってした請求が認容されるための要件としても規定されていると解されるからである。

そこで以下においては、右の見地から、本件請求及びその基礎とする本件議決が法所定の手続的要件及び実体的要件のいずれをも充足しているかどうかを検討するが、その検討に当たっては、本件議決が区分所有者の三分の二を越える多数の者によってされていることを、充分斟酌すべきであると考えられる。

二  本件議決の手続上の要件の充足の有無について

1  甲第一号証、甲第二号証、甲第一二号証、乙第三号証の一から六まで、乙第九号証並びに証人松村敬造、同木村秀和及び同志鎌芳夫の各証言によれば、原告は、平成五年六月一六日付けで各区分所有者に対し同年七月二四日に第一回臨時総会が開催され、そこでは第一号議案として「本マンション区分所有者等の共同生活の利益を守り、その共同生活の維持を図るため、本件マンション1号棟一〇三号室甲野一郎氏に対する建物の区分所有に関する法律第60条1項所定の同人専有部分(1号棟ならびに4号棟301号室)の契約解除ならびにそれらの引渡等請求の件」を議題とすること、委任状提出の場合は、同封の委任状に委任するものを記載して記名押印し提出すべきこと等を通知した書面に「甲野一郎の悪行状目録」を同封した封書を送付したこと、原告は、同年七月一八日付けで被告甲野に対し、同月二四日開催予定の原告臨時総会において右行状目録の内容について弁明すべき旨通知した書面に右行状目録(但し、同年六月一八日以降七月一八日までに起こった事柄及び被告甲野のオーム真理教信者に対する暴行について及びまとめが記載された追記が付加されている。)を添付し、これを同被告に送付したこと、右悪行状目録は、同月二三日更に訂正事項及び補足事項が加えられ、これが各区分所有者に最終的なものとして配付されたこと(この段階の「甲野一郎の悪行状目録」(甲三七、乙七の二)を以下「目録」という。別紙のとおりである。)、並びに同年七月二四日本件マンション四号棟一階集会所において原告の平成五年度第一回臨時総会が、出席者二三名、委任状提出者一六四名合計一八七名(管理規約第三六条により、組合員は、その所有する住戸一戸につき一議決権を有することとされている。したがって、第一号議案の定足数は、区分所有者の四分の三である一六七名となる。)をもって開催され、第一号議案についての被告甲野の弁明を聴いた後、同被告を退席させて出席者において討議がされた後、挙手による採決がされ、反対一票、賛成一八六票によって第一号議案が可決されたこと、以上の各事実が認められる。

2 右認定事実によれば、本件議決は、法及び原告の管理規約(甲一)の定めるところに従ってされており、手続として欠けるところはなかったものというべきである。

3  被告甲野は、採決の際、反対のみが採決され、賛成は採決されなかっため保留意見も賛成に加えられたと主張する。しかし、甲第二号証の議事録の記載に証人松村及び同志鎌の各証言を併せれば、採決は、賛成についても挙手によって行われたものと認められるから、同被告のこの主張は採用できない。のみならず、木村秀和が録取したものを反訳したとする乙第九号証の記載によっても、留保らしい意見を述べたとされる二名は、賛成一八六名というカウントに対して積極的に異議を述べておらず、その発したとされる言葉もどの程度の意思を反映したものかが明確ではないから、これらの者が留保意見であったとは直ちに認め難いのである。

4  被告甲野は、本件議決に賛成した者についてその意思決定に何らかの瑕疵を及ぼすような事実があった趣旨の主張はしていない。のみならず、本件の事実関係によれば、議決に加わった区分所有者は、その送付された行状目録及び議案提案の趣旨を理解して、自由に議案に賛成するかどうかを判断したものと考えられ、その判断過程に、原告の役員が欺罔行為をしたとか不当な介入をしたとかいうような不自然な要素が介在した形跡はない。

5  以上によれば、本件議決は、その手続的要件を充足して行われた適法なものであると認めるべきである。

三  本件議決及び本訴請求における実体的要件の存否について

1  右二において認定した事実によれば、本件議決は、目録記載の事実の有無及びその事実によれば被告甲野について区分所有法所定の要件があるかどうかという観点から判断され採決されたというべきである。原告が、本訴においてその請求が同法所定の実体的要件を満たすとして主張する事実も、目録記載の事実の一部である。

2  甲第四〇号証並びに証人松村及び同志鎌の各証言によれば、原告の総会等の機会に区分所有者らから被告甲野の所業で被害を受けたという訴えが相当数あり、原告理事会の運営も同被告に妨害されるなどのことがあったため、理事会定例会において同被告の退去を求めるために同被告のこれまでの行状を調査しようということとなり、志鎌が中心となり、松村や成瀬六郎その他の理事も補助し、概ね被害者に直接聴取して事実の有無を確認したうえ、三ヶ月程度の時間をかけて目録を作成したものであることが認められ、甲第二号証によれば、被告甲野も、前記弁明の機会において、そこに記載された事実を全部否定しているものではなく、間違いもあるし、大袈裟に書かれているものもあり、納得できないと述べるに止まっていることが認められるのであって、これらの事実によれば、目録記載の事実は、概ねそれぞれ相応の根拠に基づくものであることが推認されるところであるが、以下、目録記載の個々の事実について、これらが議決の時点において存在したといえるかどうかをまず検討する。なお、目録には、その作成者の主観の表明や評価に属する部分もあるが、これらは除外し、事実に属する部分の有無についてのみ見る。

(一) 目録1記載の事実について

甲第一三号証及び甲第二〇号証の山口義光の各陳述記載並びに証人山口義光の証言によれば、目録1記載の事実のあったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載は、被告甲野の言い分をそのまま記載したものに過ぎず、右認定に反する部分は採用することができない。

(二) 目録2記載の事実について

甲第三六号証の志鎌の陳述及び証人志鎌の証言によれば、目録2記載の事実があったことを認めることができる。乙第七号証の一及び乙第九号証の各記載によっても、中島雪子は、当該事実を目録に載せたことを非難しているに過ぎず、そこに記載されたような事実のあったことを否定している訳ではないから、右認定を覆すものではない。

(三) 目録3記載の事実について

甲第一七号証によれば、菅野榮子が、目録3記載の事実のあったことを確認しており、これによれば、この事実を認めることができる。乙第七号証の一の記載は、被害者の確認書に対して有効な反論となるものではない。

(四) 目録4記載の事実について

証人志鎌の証言によれば、志鎌は、伊藤の妻に直接会って目録4記載の事実(後に一部訂正している。)のあったことを確認したうえ、これを記載したことが認められ、これによれば、目録4記載の事実があったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載においても、近隣から苦情が何回かあったことは認めており、目録記載の事実に対する有効な反論となっていない。

(五) 目録5記載の事実について

乙第四号証の二によれば、松村及び志鎌は、別件訴訟の準備書面において目録5記載の事実と同様の事実主張をしていることが認められる(もっとも、目録記載の訂正において花岡富士子は、被告甲野から脅かされたことはない旨記載された。)。乙第七号証の一においても、被告甲野の言によって花岡富士子が理事を辞任するに至ったことは認めている。これらによれば、この事実のあったことを認めることができる。

(六) 目録6記載の事実について

甲第二〇号証及び甲第三六号証の各陳述記載、甲第四〇号証の供述記載並びに証人松村の証言によれば、目録6記載の事実のあったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載は、一つの意見の表明に過ぎず、右認定を覆すに足りるものではない。

(七) 目録7記載の事実について

甲第一三号証の陳述記載及び甲第四〇号証の供述記載によれば、成瀬六郎は、目録7記載の事実があったことを認めており、これによれば、この事実があったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載は、これら証拠に対する有効な反論となってはいない。

(八) 目録8記載の事実について

甲第四〇号証の陳述記載及び証人志鎌の証言によれば、目録8記載の事実のあったことを認めることができる。乙第七三号証の被告甲野の供述記載は、このような事実のあったことを全く否認するものではない。乙第七号証の一の記載も同様である。

(九) 目録9記載の事実について

証人松村の証言並びに乙第四一号証の陳述記載及び乙七三号証の供述記載によれば、被告甲野が松村の胸ぐらを掴んだまま交番に赴いたか否かはともかく、同被告が目録9記載の時に松村を引っ張って交番に連れて行ったという事実の発生したことは認めることができる。

(一〇) 目録10記載の事実について

甲第九号証、甲第二一号証の一、甲三八号証の一から四まで、乙三七号証及び証人松村の証言によれば、目録10記載の事実を認めることができる。乙四一号証の陳述記載は、そこに記載されたとおりの事実が発生したのであれば、被告甲野が八万円を支払う裁判上の和解によって、当該訴訟が決着を見る訳がないと考えられ、採用することができない。

(一一) 目録11記載の事実について

甲第一四号証、甲第三六号証の陳述記載及び証人松村の証言によれば、そこに記載のマージンの金額はともかくとして(目録でも金額は推定の形でしか述べられていないが)、目録11記載の被告甲野から鷲崎に対する金銭供与の事実があったことは概ね認めることができる。被告甲野も、本人尋問において鷲崎に謝礼を渡したことは認めている。

(一二) 目録12記載の事実について

証人志鎌の証言によれば、目録12記載のような事実のあったことを認めることができる。もっとも、このような事実が被告甲野の悪い行状であるとは解されない。

(一三) 目録13記載の事実について

証人志鎌の証言によれば、目録13記載のような事実のあったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載によれば、鷲崎は、自分としては被告甲野から恐喝されたとは思っていないといっているとのことであるが、その管理人の辞任に同被告の所為が無関係であるとまで述べる訳ではなく、右認定を覆すに足りない。

(一四) 目録14記載の事実について

甲第八号証の一、二、甲第一五号証の一、二及び証人松村の証言によれば、目録14記載の事実があったことを優に認めうる。掲示を破ったことは被告甲野も自認するところである(乙七三)。

(一五) 目録15記載の事実について

目録15記載の事実については、これを裏付ける証拠が見当たらず、乙第七号証の一の記載と対比すると、これがあったことを直ちに認定することはできない。

(一六) 目録16記載の事実について

この目録が志鎌の作成になること及び乙第七号証の一の記載によれば、被告甲野は、山口に感謝状を出すのだと誤解して山口を呼ぶなと成瀬や志鎌に口を出したことは認めていることによれば、目録16記載の事実のあったことを認めることができる。同被告は、二人を脅していないとするが、同被告がどのような口調で言い、二人がそれをどのように受け取ったかは、受け手の主観的問題でもあって、脅したということに対する有効な反論にはならない。

(一七) 目録17記載の事実について

甲第三六号証の陳述記載によれば、目録17記載のような事実があったことが認められる。乙第七号証の一の記載によれば、森山誠は、被告甲野が吸っている煙草を投げようとしたと言っていたというが、細部の違いはおき、このような事実があったという認定を左右するものではない。

(一八) 目録18から20までに記載の各事実について

甲第三六号証の陳述記載及び証人志鎌の証言によれば、志鎌は、加藤から目録18から20までに記載の各事実のあったことを聴いてこれら事実を記載したものであることが認められ、これによれば、これらの事実のあったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載は、被告甲野側の事実に関する主張に過ぎず、右認定を覆すに足りるものとはいえない。

(一九) 目録21記載の事実について

証人松村及び同志鎌の各証言によれば、目録21記載の事実のあったことが認められる。この事実は、被告甲野も、その動機はともかくとして、あったことを認めるところである(本人尋問の結果)。

(二〇) 目録22記載の事実について

甲第五号証から第七号証まで、甲第二二号証、甲第四〇号証並びに証人松村及び同志鎌の各証言によれば、目録22記載の事実のあったことが明らかである。乙第七一号証及び被告甲野本人尋問の結果によれば、同被告は、その後このような共用部分の使用を止めている模様ではあるが、右証拠から認められるその使用の態様からして今後これが繰り返されないという保証はない。

(二一) 目録23から25までに記載の各事実について

甲第四〇号証の陳述記載、証人松村及び同志鎌の各証言によれば、概ね目録23から25までに記載の各事実のあったことが認められる。被告甲野も、乙第七三号証の供述記載及び本人尋問の結果において、その当否はともかく、大要においてこのような事実のあったことは認めるところである。

(二二) 目録26記載の事実について

証人志鎌の証言によれば、目録26記載の事実のあったことを認めることができる。乙第七号証の一の記載は、被告甲野側からする反対主張に止まるものであり、この記載によっては、右認定を覆すに足りない。

(二三) 「その他」記載の事実について

「その他」記載の事実は、かなり感情的な表現が使用されてはいるが、甲第二〇号証、甲第四〇号証等の原告の理事経験者の陳述記載や、証人松村、同志鎌及び同山口の各証言がこれを裏付けており、かって自治会の会計係を勤めていた飯田英治も同様趣旨のことを述べている(甲四一の一九)。これらによれば、そこに記載の事実を認めることができる。

(二四) 補足事項記載の事実について

乙第七号証の一の記載によれば、被告甲野が、補足事項記載の事実に類似した事実のあったことは認めており、これによれば、この事実のあったことを認めることができる。

(二五) 追記記載の事実について

乙第七号証の一の記載、乙第九号証の記載及び証人松村の証言によれば、追記の一、二及び四に記載の事実(もっとも、四記載の事実中、被告甲野がオーム信者の頭を殴打したかどうかについては、必ずしも明らかではない。)が認められる。

3  以上によれば、目録に記載された事実には、15や追記の四記載の事実のように必ずしも認定できないものもあり、認定できた分についても、細部までそこに記載されたとおりに認定できないものもある。しかし、目録記載の各事実は、これらの認定できない事実や異なる認定となる事実があることを考慮しても、全体として、これらのことがあれば、被告甲野によって建物の管理または使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為がされていると評価されてもやむを得ないものであるし、右各事実によれば、同被告が本件マンションに留まっていると、これらの行為に類似する行為が今後も反復され、それが区分所有者の共同生活に著しい障害となるものであり、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図るためには、契約解除及び引渡し請求以外の方法によるしかないと多数の区分所有者が考えたとしても、それには相応の合理性があるものといわざるを得ない。本件議決は、区分所有者の四分の三を越える多数の者が加わって行われたものであり、被告甲野においては、承服できないものがあるとしても、その多数の意思には従わざるを得ないものというべきである。

4  本件議決後の本訴請求における実体的要件の存否に関してみるに、甲第一〇号証、甲第一二号証並びに甲第一三号証及び甲第一六号証の各陳述記載、甲第一九号証の一並びに甲第二二号証、甲第三九号証及び甲第四〇号証の各陳述記載、甲第四一号証の一、五、八、九、甲第四二号証の反訳書、乙第四六号証の三、四、乙第五八号証、乙第七二号証の一、乙第七三号証の供述記載並びに証人志鎌及び同松村の各証言によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告甲野は、平成五年七月二五日午前〇時過ぎ頃集会室に居た志鎌らの所に来て、そこから帰宅しようとして駐車場の所まで来た志鎌と口論になるなどのことがあり、志鎌は、そこで同被告に胸部を小突かれたり、脅されたりし、精神的損害を被ったとして慰謝料請求訴訟を同被告に対し提起している(当庁平成五年(ワ)第一四七九〇号)。

(二) 被告甲野は、同年八月二九日午後九時過ぎる頃本件マンション南側避難通路上の駐車を禁止されたことを不満として、志鎌の自宅に押し掛け、志鎌が取り合わないことを怒って、その玄関ドアを引っ張り、「志鎌出て来い。」などと大声でわめき続け、志鎌の一一〇番通報によって警察官が出動する騒ぎとなった。

(三) 被告甲野は、同年九月一五日夜神社祭礼の打上げ会に出席して帰宅途中の成瀬を呼び止め、「理事長をやめろ。」など暴言を吐き、成瀬は、その際の同被告の暴行・脅迫によって精神的損害を被ったとして慰謝料請求訴訟を同被告に対し提起した。

(四) 被告甲野は、同年九月一四日自治会役員会において会長職を解任されたにも係わらず、自治会や会長の印鑑、鍵等会長職にあった者が引き継ぐべき物件を引き渡さず、そのため自治会は、その引渡しを求める仮処分を当庁に申請した。被告甲野は、これに基づく執行によって会印、会長印、キャビネット等を自治会に引き渡したが、南側避難通路の車止めチェーンの鍵は、自治会によって提起された動産引渡請求の本訴(当庁平成五年(ワ)第二一五八三号)における和解によって、ようやく平成六年四月二八日になって自治会に引き渡した。

(五) 被告甲野は、本件建物内に立ち入らなければすることのできないガス管及び排水管の各改修工事に協力しないため、原告は工事のため本件建物に立ち入って所要の工事をすることを可能とする仮処分を平成六年九月二〇日当庁に申請し、その手続の過程においてようやくこれらの工事をすることを承諾した。

(六) 被告甲野は、同年一〇月二三日本件マンション西側路上において自転車の整理の件で志鎌と口論となり、殴り合いになって双方が手傷を負った。

5  乙第七三号証の供述記載及び被告甲野本人尋問の結果によれば、以上の事実経過において誰に責を負わせるべきかという点や細かい事実関係については、同被告にも言い分があるようであり、その中には同被告のいうことの方が正しいものもあると考えられる。しかし、外形的な事実経過は、右に認定のところを外れるものではないと考えられるのである。同被告は、原告から多数の議決によって賃貸借契約の解除と建物引渡しを求められ、本訴において係争中であるのであるから、これ以上の区分所有者らとのトラブルは避けようとするのが人情であると考えられるのに、右に認定した同被告の行動にはそのような配慮が全く感じられず、むしろ前と同様といわれてもやむを得ないような行動を繰り返しているのであって、これら認定事実によれば、同被告の行為については、区分所有法六〇条一項所定の実体的要件が本訴口頭弁論終結時においてもなお失われていないと判断する他はない。

第四  結論

以上によれば、原告の請求は理由があることとなるから、これを認容すべきである。

(裁判官中込秀樹)

別紙物件目録〈省略〉

別紙甲野一郎の悪行状目録

一.平成三年秋頃、甲野は前管理人鷲崎和利より、松村敬造氏と甲野自身の民事訴訟について、「影で糸を引いているのは本管理組合元理事長山口義光氏だ。」と告げ口された。甲野は山口氏を自宅に呼び付け内側からドアーの鍵を掛け、右訴訟を影で糸を引いている(甲野の勝手な誤解であり勝手な思い込み。)ことを詰問し、甲野は山口氏に「また、仲良くやろうよ。」と言ったそうです。これに対して山口氏は甲野に対して「糸は引いていない。仲良く出来ない。」と言った処、甲野は「お前の娘を嫁に行けない体にしてやる」と言って山口氏を脅迫した。(松村敬造氏はある人から「娘を強姦してやる」と甲野が脅迫したと聞いた旨言っている。)結果、山口氏は甲野の脅迫には屈しなかったそうです。しかし娘を犯されては取り返しが付かないと思ったそうです。

二.昭和六三年夏の夜、一号棟南側の駐車場に於て、車の駐車の仕方に関して、甲野はパンツ一丁で大声を張り上げ本マンション一号棟五〇三号室の中島宏氏の息子さんを恫喝し続けていた。見かねた奥さんが一一〇番した処、警察官も駆け付けたが民事と言うことで成行きを見守っていた。あきれ果てた品位の無い行状であった。甲野の恫喝する声に本マンションの住人の多くが恐怖感を覚えた。非は甲野にあった。

三.甲野の居住する真上の一号棟二〇三号室に区分所有者として住んでいた菅野好意さんの娘さんが、ベランダに干してあった布団をはたいた処、甲野は自宅にホコリが入ったと言って、上階の菅野さん宅に行き娘さんを殴ったそうです。甲野を刑事告訴するように薦めた方も言たようですが、甲野に対して恐怖を覚え、マンションを売却して菅野さんは出て行きました。本末転倒であり、許される行為ではない。

四.甲野の居住する部屋の西側隣接の一号棟一〇二号室に区分所有者として居住していた伊藤繁晴氏は、甲野の深夜の及ぶ酒盛の騒音に対して再三に亘って苦情を申し込んだ処口論となり甲野は改めなかった。伊藤さんの家族は、仕事の都合と一つの要因として甲野に対する嫌な思いが強かったので一日も早く引越したく、現住所に家を新築して越して行った。その他にも伊藤さんの奥さんは甲野と喧嘩をしたと言っていた。

五.甲野は自治会活動において、当時会計を担当していた本マンション三―一〇〇一号室の区分所有者であり居住者である花岡富士子女史は言われなく電話により突然「会計報告をしなくていい。」とその職を取り上げた。この時点で同女史は義務遂行の意志をそがれ、これを期に自治会から身を引いた。同女史に当管理組合理事等が理事への就任を要請しても、心の傷が癒えるまで理事には就任しないと辞退している。

六.甲野は自治会長として管理組合理事会に出席のおりは必ず、各理事を恫喝していた。特にご主人に変わって出席していた奥様方は甲野と関わりたくないので欠席する事が度々であった。私も甲野に度々大声で恫喝された。その度に私は甲野に対して、大声を出すな、恫喝するなと言って静止した。

七.甲野は現理事長成瀬六郎氏に対して、一賃借人に過ぎない身を忘れ、再三に亘って理事長を辞任するよう脅迫し続け、今日に至っても繰り返し脅迫している。自分(甲野本人)の手を汚さないでやると具体的に脅迫している。又本来縁もゆかりもない成瀬氏の実兄の営む会社社長に対しても脅迫すると成瀬氏を脅迫している。

八.平成五年三月一七日理事会終了後集会室に甲野は酒気を帯び入り込んで恫喝しながら副理事長の私(志鎌)の胸倉を掴んで因縁を付けてきた。私は甲野の右腕を払い自室に帰った。甲野は私に対し「志鎌!」と絶唱して恫喝した。理事長成瀬六郎氏はこの傷害事件をその場で目撃した。その後、成瀬氏は深夜二時半まで甲野に付き合わされた。翌朝成瀬氏は私に対して「甲野は怖かったよ」、と言い「志鎌さん、理事長やってよ」と言っていた。私志鎌も恐怖の念を感じた。甲野如き馬鹿たれに負けてなるものかと自身の心を鼓舞した。

九.甲野は本マンション区分所有者である二号棟八〇四号室在住の松村敬造氏の襟元を掴んで本マンションより亀戸九丁目の城東警察署の派出署まで引きずって行った。これも傷害事件である。

一〇.甲野は右同氏の居宅を深夜に訪ね、四五分間に亘ってドアーを蹴り飛ばし、同氏を馬鹿野郎呼ばわりし、出てこいと大声で怒鳴り続けて事件を起こし、同氏より提訴され、和解金八万円を支払って事件を解決した事実がある。

一一.本マンション給水管更新工事に関連して、一部区分所有者よりユニットバスの取り替え工事を甲野は受注した。この受注金の一部を元管理人鷲崎和利にバックマージンとしてお金(理事長成瀬氏の入手した情報によると一軒当り一〇万円で八〇から一〇〇軒として八〇〇万円から一〇〇〇万円の金額となる。)を手渡した。(この事実は元管理人鷲崎和利が、前理事長で本マンション一号棟八〇二号室の区分所有者である木村秀和氏と私志鎌に語った。)理事長成瀬氏はこの事実を他のルートより察知した。

一二.甲野は管理組合理事会に対して、右一〇.の事件の訴訟に関して応援を申し入れた。理事会は当初より甲野個人が引き起こした訴訟沙汰は理事会は関係ない旨申し渡した。但し管理組合として早く和解に導くよう甲野の法定代理人を通して、管轄裁判所に上申書を提出の旨伝え作業に入ったが甲野は意に沿まず、自治会長を辞任すると言いだした。甲野はこの時点で自治会長を辞任した。

一三.右一二.の際甲野は元管理人鷲崎和利が右一一.の金を受け取って置きながら、自分(甲野)に鷲崎が味方しなかった事を根に持って、鷲崎を脅迫し、恫喝し同氏の奥さんも脅迫し、恐怖を覚えた管理人夫婦は職を辞して退去した。私志鎌は脅迫、恫喝の場にも立ち合った。理事長成瀬氏も居合わせた。奥さんへの脅迫は奥さんより私が聞いた。この時、警察に告訴することを薦めたが管理人夫婦は傷口が広がるのを恐れ、職の当てもなく退去した。増収賄における「金の切れ目が縁の切れ目」となった典型的事件であった。管理人に「金」の事が原因かと尋ねた処、「そうだ」と言っていた。その後平成四年度の決算作業で管理人自身の不正も露顕した。

一四.平成五年五月一七日午後四時四五分甲野は管理組合掲示板に掲示してある「お知らせ」三枚を私志鎌の目の前で破り去った。器物遺棄の刑事事件である。

一五.平成五年四月二九日未明甲野は集会室ドアーで駐車中の新車(望月氏の会社の車で二回しか乗っていない車)のドアーに傷を付けた。数日後理事長成瀬氏より奥さんを通じて責任を取るよう求めたが、亦答なし。当時集会室の鍵は理事長成瀬氏と管理人金井山次氏と甲野の三人が所持していた。成瀬氏と管理人は当日集会室は使用していない。甲野は深夜二時から四時ごろ本マンション内外をうろついているとの事実がある。この車の修理代約一一万円は管理組合が負担した。

一六.平成四年一〇月二〇日過ぎ、本マンション管理組合が自主管理に移行した際、管理会社へ感謝状を贈呈する事に理事会で決した。その折り、関わりのあった元理事長山口義光氏、前理事長木村秀和氏等に同席してもらう事に決した。甲野はどこからかこの情報を聞き付け何の権利もない身でありながら、理事長成瀬氏と私に凄みのある目をして「何で俺が止めさした山口を呼ぶんだ。呼ぶな。」と言って我等二人を脅した。

一七.元理事の森山誠氏の件では、同氏に代わって奥さんが出席した理事会に於て、その会議中、甲野(相談役)より「お前じゃあ、話にならない、本人を呼べ」と恫喝され、煙草(ケースごと)を投げ付けられた。

一八.元理事の永田氏は甲野に脅迫され、その後理事は一切引き受けなかった。

一九.元理事の加藤氏も右永田氏と同じく甲野に脅迫され、その後理事は一切引き受けなかった。加藤氏も警察に告訴しようとしたらしいですが報復を恐れ断念したようです。色々の方が実情を尋ねても、加藤氏は口をつぐんで一切沈黙を守り話してもらえない。余ほど強く甲野から脅迫されたらしい。加藤氏は真面目で几帳面に会議のメモを取り管理組合、理事会に多大に献身したと聞き及ぶ。

二〇.正論派の右元理事永田氏及び加藤氏を脅迫により理事会より追い出し、結果として理事会に甲野が権利もないのに入り込んだ。この事実を甲野は自らある人に語ったそうだ。実に馬鹿化た事である。

二一.平成四年一〇月一七日、本管理組合臨時総会終了後、会議の録音テープをケースから引き出し反故にされた。全く、異状な行動であり、業務妨害である。テープは甲野に弁償させた。会議の記録は全て私の記憶により作成し、議長、議事録署名人の署名を受けた。

二二.甲野は共用部分に許可もなく、賃借している一号棟ベランダ南側の空地を勝手に資材置き場として使用してきた。賃借している四―三〇一号室ベランダにはワラン合板で物置小屋を築造している。このような不法行為を平然とやっている不届き者である。管理組合からも、また松村氏、南野さんの奥さんからも再三再四に亘って甲野は注意されていた。資材を置いていた処は松村氏と訴訟中に片付けたが、再び無断使用をしていた。

二三.平成五年二月頃、甲野は本管理組合の許可を受けずに、玄関ホール入口鉄棚にオオム真理教絶対反対の看板二枚を張付けた。当時松村氏個人より管理人金井山次氏が掲示物を撤去するよう要求されたが、管理人、副理事長橋本幸二氏共に甲野に恐怖し掲示物をはずさなかった。そこで私がその二枚の掲示物を撤去した。

二四.右二三.事件の一両日後再び甲野は同様の掲示物を張付けた。再度松村氏より管理人が指摘された。管理人へは、松村氏の指摘は正当であり、区分所有者の進言を優先して聞き入れる様注意した。理事長不在で私が理事会代表で、当時自治会会長代行の藤田氏を集会室に呼び、他の理事も召集し事件のあらましを説明した。会長代行へは、管理組合は共用部分の管理を主目的としている組織であり、管理組合に事前に許可を得ずして勝ってに掲示物を掲示することはまかりならぬ旨伝え、撤去するよう要求し撤去ねがった。これは管理組合としては当然な処置である。甲野は深夜私の部屋の玄関ドアーのノブをカチャカチャ回して居たが、丁度理事長成瀬氏と電話中であり取り合わなかった。甲野は意に沿わない事があると直ぐ他人の住居に押しかける癖がある。

二五.右二回の撤去により甲野は常道を逸し、掲示物を自治会の掲示板に事もあろうに、ビスでもんで掲示物を掲示した。掲示物を外せば、ビスの穴跡が明きそこは画鋲が効かない。ちなみに自治会掲示板は管理組合で費用を払った。

二六.管理組合理事会は甲野と話をしても話合いにならず、どうせ理事全員が恫喝され、嫌な思いをするばかりであり対話は拒否している。副理事長橋本幸二氏も甲野から早朝、深夜に電話され、また住居を訪問されたが取り合わなかった。電話といい、訪問の仕方が尋常でないためフィヤンセの女性は恐怖している。そこで同氏は、現在甲野の要求通り理事会に甲野を呼ぶ事はなく、右一四.刑事事件についての署名活動を正々堂々行ない、フィヤンセは甲野に対する恐怖心を抱いたため彼女との結婚が破談にならないよう、二度と電話や自宅への訪問はしてくれるなと甲野に言ったそうです。甲野の必要なまでの言動に橋本氏も恐怖を感じ、理事長成瀬氏や私に助けを求めてきた。甲野には全理事が理事会に出席する事を拒否していると言っても納得しないらしいので、「志鎌さんや松村さんが強く反対している」と甲野に言いますと橋本氏は言うので、私は「あなたの婚約が破談にならないためなら結構ですよと同意した。又松村氏も同意するでしょうと言ってあげた。後日この件で松村氏も追認、同意した。

この様に甲野は自分の思いを通すのに、他人に恐怖心を抱かせても事を成就しようとする非人格者である。

その他

甲野の悪行は調べれば枚挙に暇がない。甲野の悪行は筆舌仕難い。甲野は単なる賃借人であり、元来管理組合に発言する資格はない。管理組合理事会も甲野の脅迫、恫喝に恐怖し、各自耳を塞ぎ、目を塞いで、触らぬ神に崇りなしを決め込み、理事を辞任した方々が大多数である。身の危険を省みず、甲野と直接闘争してきたのは、松村敬造氏、成瀬六郎氏、私の三人である。この他にも甲野に対してき然たる態度を示す勇気ある方々もいる。今を除いて本マンションの浄化を計る時は無く今が絶好の機会であり、この機を逃せば長らく平穏は訪れず、理事会も決まって腐敗する。当然本マンションの住環境は改善されず今以上に甲野が威張り散らし、悪化の一途をたどる。

訂正事項

四.伊藤繁晴氏の奥さんは、甲野が直接の原因ではないが一つの要因であったと言っていた。(平成五年七月二〇日)

五.花岡富士子女史は、甲野から脅迫はされなかったと言っている。(平成五年七月二〇日・同二三日)

補足事項

一九.について。

元理事の加藤氏が重い口を開いて語ってくれた。理事を退任する前の年(昭和六三年頃か)一二月、年末の火の用心の巡回のおり、担当者であった同氏よりも先に甲野(当時自治会の役員ではなく関係のない人と同氏は言っていた。)は集会室に入り込んで(他の者も居た。)酒を飲んでいたそうである。同氏は甲野に対して注意等をしたところ、甲野はビール瓶を(割って=映画等に出てくる暴力しシーン紛い、実際にはビール瓶は割れなかったそうです。)を片手に持って足で顔を蹴ったそうです。前理事長木村秀和氏は加藤氏に対して、警察に告訴するよう言ってくれたと同氏は言っていた。他人の顔を足蹴りにするなど甲野の行為は許されるものではない。

追記

一、平成五年六月一八日午後一一時頃、甲野は集会室流し場の窓の外から理事会の様子を窓ガラスに耳を付けて約一時間三〇分の間、盗聴していた。

二、平成五年七月一〇日午後一一時三〇分頃より同一一日午前二時迄約二時間三〇分の間に亘って、甲野は集会室内部を西側窓の隙間よりビデオを使用して管理組合の許可もなく勝手に撮影、盗聴を行なっていた。

三、平成五年七月一七日午後一一時頃、甲野は集会室東側の窓の外よりビデオを持って盗聴していた。同一五分頃理事会終了に伴なって、理事田口康氏退出のところ甲野は同氏のあとを追い、話を聞かせろ等言ったが田口氏は真ともに取りあわなかった。次に理事小野武志氏の代理で出席していた奥さんの小野ヤイさんの帰宅を捉え、理事を撮影すると言って甲野はエレベーターの中までついて行き、小野ヤイさんを撮影したので同女史は集会室にとって返し、田口氏の難とご自分の難を残って居た理事長成瀬氏、理事松村氏、理事平田氏、副理事長の私志鎌に告げた。甲野の田口氏に対する大きな声が響いたので理事長成瀬氏は甲野を静止しに出て行った。このような場合甲野は話にならないので一一〇番通報をして、警察官の出動を依頼して来てもらった。来てくれた警察官は甲野の行状をよく知っており、昔(数年前)当マンションの内装工事の件で、他の業者の邪魔をして警察沙汰を起こしたとその警察官は言っておりました。警察官より甲野の処理は警察の方で対処しますから、理事の皆さんは早く帰宅して下さいと促されたので、そのようにしたが甲野は理事長成瀬氏にしつこく付きまとっていた。

四、オーム真理教のテレビ報道の放映に於ける甲野の不法行為について

日本テレビ、テレビ朝日等のテレビ放映によると、平成五年六月二七日頃(放映は翌日)、「教祖の麻原(まはら)某氏が亀戸のオーム教ビルにベンツで乗り付けた時、甲野は警備の警察官より「手を出すな。手を出すな。」と再三注意されている場面と音声が放映・放送されていた。同年七月四日(放映は翌日)、日本テレビの放映によれば、甲野はオーム真理教の信者(甲野曰く、オームビルの現場責任者と報道ビデオの中で言っていた。)の頭を警備していた警察官の目の前で殴り付けた、この行為について、ワイドショウの司会者岸辺シロウ氏も「暴力はいけません」と発言しておられた。これが甲野の実態であり動かぬ証拠であります。

まとめ

常に甲野は当管理組合の理事等に対して、右のような事件を引き起こしている。我等理事は甲野より常に嫌な思いをさせられながら職務を履行しているものであります。甲野の悪行状は枚挙のいとまがない。本日は、日本の政治を改革しようという、衆議院議員選挙の当日であります。国政を正しくすることも是非必要でありますが、当管理組合に対する甲野を排除し、我等の所有・居住する当マンション、カーサ第二亀戸をより住みやすく・正しくすることは、政治を正しくする事と等しく大切な事であり重要な事であります。区分所有者、居住者の方々のご理解、ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。 以上

平成五年七月一八日(訂正、同年同月二三日)

カーサ第二亀戸管理組合

理事一同

区分所有者各位

居住者各位

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